日本の農業は様々な問題を抱えている。その中でも特に深刻なのが
- 農業人口の高齢化と減少
- 技術継承の難しさ
- 一人当たりの作業面積の限界
といった問題である。
そこで、これらの問題を解決する手段として考え出されたのが、スマート農業である。
スマート農業とは
スマート農業とは日本の高い農業技術と、ロボットやICTなどの最新テクノロジーを組み合わせた、先進的な農業のことである。農林水産省がスマート農業の研究会を開いた約5年前から官民一体となって開発が進められている。今年の5月に行われたG20農相会合においては日本の農業の先進事例として紹介されるなどして注目を集めた。スマート農業には大きく分けて5つの目的がある。
[1] 超省力・大規模生産を実現
GPS走行システムなどの導入による農業機械の夜間走行・同時走行・自動走行等で今までの作業効率の限界を打ち破り、高い生産性を実現する。
[2] 作物の能力を最大限に発揮
ドローンによるセンシングや、過去のデータの蓄積、農業従事者の有用な知見などを組み合わせることにより、作物が本来持つ能力を最大限に生かし、多収量かつ高品質を実現する。
[3] きつい作業、危険な作業から解放
収穫の際の重労働の負担をアシストスーツなどで軽減したり、ロボットによって除草などの作業を自動化する。
[4] 誰もが取り組みやすい農業を実現
農業機械のアシスト機能により経験が浅くても高精度の作業が可能となる。また、今までの経験やノウハウをデータ化することにより誰もが農業を始めやすい状況をつくる。
[5] 消費者・実需者に安心と信頼を提供
クラウドシステムにより生産の詳細な情報を消費者と実需者に直接届け、安心と信頼を提供する。
(出典 農林水産省ホームページ)
スマート農業の現状
では、実際の例をいくつか見ていこう。
- 自動走行ロボット
自動走行ロボットの定義には以下の通り3段階あり、現在第2段階の製品がモニター販売されている。

具体的な製品としてはクボタ(6326)のAgri Robo [無人仕様] が挙げられる。この製品は高度なGPSと自動運転技術を兼ね備えており、
・リモコンによる遠隔操作
・耕うん作業(田畑の整地や除草作業)
・代かき作業(田植えのために水を入れ、土塊を砕いてならす作業)
・無人機の監視機能を備えた有人機仕様のAgri Roboを併用することによる2台同時走行
が可能である。この製品は先に挙げたスマート農業の目的のうち、
[1] 超省力・大規模生産を実現
[3] きつい作業・危険な作業からの解放
[4] 誰もが取り組みやすい農業を実現
以上の3つの達成に寄与するであろう。
一方、課題としては、
・必ず現場での監視が必要となる
・傾斜地や障害物のある圃場での自動運転は行えない
・馬力が60までしかない
ことなどが挙げられる。

2. ドローン
スマート農業におけるドローンの役割は大きく、リモートセンシング(地表のデータ解析)や農薬の自動散布などにおいて活用されている。
具体的な事例として、ファームアイが挙げられる。この会社は2018年6月からドローンを用いたリモートセンシングサービスを提供している。具体的なサービスの流れは
1.ファームアイのオペレータが特殊なドローンを用いて農場を空から撮影する。
2.撮影された画像を分析する。
3.農場の様々なデータが記載された「育成マップ」が届く。
となっている。
そしてこのサービスの導入によって
・地力、育成ムラの改善
・土壌、栽培管理
・経年データの蓄積
等が可能になる。これらは、スマート農業の目的のうち
[2] 作物の能力を最大限に発揮
[4] 誰もが取り組みやすい農業を実現
の2つの達成に寄与するであろう。
課題としては、このシステムは水稲に最適化されており、水稲以外の作物については十分なデータを得られないということがある。

3. その他
上記の二つ以外のスマート農業に関わる製品・サービスについて、その一部を以下にまとめた。
まずはすでに実用化されているものから見ていこう。
製品名 | 企業・機関名 | 達成される目的 |
水田の水の自動管理システム | クボタケミックス | [1] [4] |
自動運転アシスト機能付きコンバイン | クボタ | [1] [3] [4] |
自動運転アシスト機能付きコンバイン | クボタ | [1] [3] [4] |
AI潅水施肥システム | ルーレット・ネットワークス | [1] [2] [4] |
リモコン式自走草刈り機 | 三陽機器 | [1] [3] |
次に現在開発中のものを見ていこう。
製品名 | 企業・機関名 | 達成される目的 |
農業用アシストスーツ | ATOUN、和歌山大学など | [3] [4] |
自動運転田植機 | 農研機構など | [1] [3] [4] |
無人草刈りロボット | 産業技術総合研究所など | [1] [3] |
現在スマート農業の製品・サービスは、農場の管理から収穫などの農作業に至るまで、多岐にわたっていることがわかる。しかし、これらの製品が広く一般農家に普及しているとは言えないため、さらなる製品の開発・改良と共に、スマート農業振興のための取り組みを進めていくことが求められる。
スマート農業振興のための取り組み
スマート農業の振興に向けては、各自治体や企業によるセミナーや展覧会など、様々な取り組みがなされている。そういった取り組みの内の一つとして、ここではスマート農業実証プロジェクトについて紹介しよう。
スマート農業実証プロジェクトとは、ロボットやICTなどの最新技術を用いた実証研究を支援する取り組みである。今年の1月から2月にかけて実証農場の公募が行われ、延べ69の農場が選出された。実証研究は令和7年まで行われる予定である。得られたデータは国の研究機関によって整理され、今後農業従事者が新たな技術を導入する際の判断材料として提供される。これにより、スマート農業のさらなる振興が期待される。

スマート農業の利用拡大による影響
最後にスマート農業の利用拡大によって、各業界・企業にどのような影響が生じるのかについて、経済予測SaaS『xenoBrain(ゼノブレイン)』の分析結果を見てみよう。

約5年前から開発が進められ、着々と実現化に向けた取り組みがなされているスマート農業。これが日本の農業を救う手立てとなるのであろうか、その動向に注目だ。